はじめに
システム企画は、新しいシステムを構築する際の最初のステップであり、プロジェクト全体の成否を大きく左右する重要な工程です。しかし、「企画が初めて」という方にとっては、どこから手を付ければよいのか分からず、戸惑うことも多いのではないでしょうか。
特に、背景や目的をしっかり考えずに、いきなりシステム構成や仕様の検討に入ってしまうケースを私の経験上よく目にします。その結果、ビジネスのニーズやユーザーの期待と乖離した企画になり、企画自体が見直しを迫られることも少なくありません。
この記事では、そういった「企画が初めての方」や「企画に自信がない方」に向けて、システム企画の基本的な考え方と、押さえるべき観点をわかりやすく解説します。これを読めば、企画検討の議論等で必要な基礎知識を身に付け、自信を持って企画に取り組むための第一歩を踏み出せるようになるはずです。
そもそもシステム企画とは何か?
システム企画とは、ビジネスの課題を解決するために、どのようなシステムを構築すべきかを具体化するプロセスです。この段階でしっかりとした企画を立てることが、プロジェクト全体の成功を左右します。ここでつまずいてしまうと、後工程で大幅な修正や手戻りが発生し、プロジェクト全体のコストとスケジュールに悪影響を与える可能性があります。
良い企画と悪い企画の違い
まずは、一般的に良いとされるシステム企画と悪い(あまり質が良くない)とされる企画において、どのような点がその評価を分けるポイントとなるか整理してみましょう。
良い企画の特徴
1. ビジネス背景が明確である
• どのような課題を解決するために、このシステムが必要なのかを論理的に説明できる。
2. 目的と手段が整合している
• 「達成したいゴール」に基づき、選択された手段(システム構成や仕様)が適切である。
3. 関係者が納得している
• ステークホルダー間で合意が取れており、反対意見が最小限に抑えられている。
悪い企画の特徴
1. 背景や目的が不明瞭
• なぜそのシステムが必要なのか、説得力がないため、審査や実施段階で疑問が生じる。
2. システム企画全体を貫くストーリーが欠けている
• 個々の要素がバラバラで、整合性がなく、結果として全体像が曖昧になってしまう。「どんな課題を解決しようとしていて、そのためにはこのシステムが必要である」のようなストーリーが見えない。
3. 運用後のことを考えていない
• リリース後の保守や運用体制が欠如しており、継続的な利用に不安が残る。
システム企画の本質は、単に「何を作るか」を決めるのではなく、「なぜ作るのか」を明確にし、その理由に基づいて合理的な設計を行うことにあります。では、次のセクションでは、いわゆる良い企画を作るために押さえるべき観点について詳しく見ていきましょう。
システム企画で押さえるべき7つの観点
ビジネス目的を満たした後々良いと評価されるシステム企画を作るためには、複数の観点をバランスよく考慮することが必要です。以下に、企画段階で押さえるべき7つの観点を解説します。これらを意識することで、実現性が高く、関係者からも納得を得られる企画を作成できる可能性が高まるでしょう。
①ビジネス目的
システム企画の核となるのは、ビジネス課題を解決するという視点です。
• 例: 「業務効率を向上させたい」「顧客満足度を高めたい」など。
これが明確でないと、関係者との合意形成が困難になり、システム構成も迷走しがちです。まず「なぜこのシステムが必要なのか?」を問い直しましょう。
②ユーザー目線
実際にシステムを使うのは誰かを忘れないことが重要です。
検討ポイント
• 操作のしやすさ(UI/UX)
• 必要な機能の優先順位
• ユーザーから見た価値
利用者の視点を取り入れないと、便利さを欠くシステムになりかねません。
③実現可能性
企画内容が現実的かどうかを冷静に評価する必要があります。システム企画では、「この内容が本当に実現可能か?」を事前にしっかり検討することが欠かせません。
検討ポイント
• 開発スケジュール
• 必要なリソース(人材・技術)
• 予算との整合性
• システムアーキテクチャの選定
システム全体の設計(例えば、クラウド環境の活用、分散型アーキテクチャの採用など)が、実現性に直接影響を与えます。適切な設計を選ぶことで、スムーズな開発と運用が可能になります。
特に、システムアーキテクチャの選択は、技術的な実現性だけでなく、将来の拡張性や保守性にも関わる重要なポイントです。非現実的な企画は、プロジェクト進行中に必ず壁にぶつかるので注意が必要です。
④運用体制
システムはリリース後の運用があって初めて機能します。
検討ポイント
• 誰がどのように運用するのか
• 問い合わせやトラブル対応のフロー
• 定期的なメンテナンスの計画
運用体制を無視すると、せっかく作ったシステムが使われなくなるリスクがあります。
⑤セキュリティ
現代のシステムにはセキュリティ対策が欠かせません。
検討ポイント
• データの安全性(暗号化やバックアップ)
• アクセス権限の設定
• 不正アクセス対策
「安心して使えるシステム」を提供するために、企画段階から対策を盛り込みましょう。
⑥拡張性
将来のニーズや環境変化に対応できる柔軟性も重要です。
検討ポイント
• ユーザー数の増加に対応できる設計
• 新機能を追加しやすいアーキテクチャ
企画時点で拡張性を意識することで、長期的に価値を持つシステムを実現できます。
⑦関係者の利害調整
システムの成否は、ステークホルダーの納得感に大きく影響されます。
検討ポイント
• どの関係者がどのような期待を持っているか
• 優先順位をつけて意見を調整する方法
すべての意見を反映するのは難しいため、合意形成のための説明資料やプロセスを準備しましょう。
これらの観点を企画に組み込むことで、リスクを抑え、実現性と成果を高められる可能性が高まります。次のセクションでは、これらの観点を踏まえた成功例と失敗例を取り上げ、実際の企画にどう役立てるかを考察します。
具体例から学ぶ:成功する企画と失敗する企画
システム企画は、その進め方によって成功する場合もあれば、思わぬ失敗につながることもあります。ここでは、一般的に見られる成功例と失敗例を比較し、それぞれの特徴を解説します。
失敗する企画の特徴
1. ビジネス背景や目的が不明確
• 事例: 営業部門から「顧客管理を効率化するシステムが欲しい」と依頼があったが、具体的な課題を掘り下げずに進めた結果、実際には既存のツールで対応可能だったケース。
• 結果: システム導入後も利用されず、投資対効果が得られなかった。
2. システム企画全体を貫くストーリーがない
• 事例: 利用部門ごとに異なる要求をそのまま取り入れた結果、システムの設計に一貫性がなくなり、複雑で非効率な仕様になったケース。
• 結果: 運用開始後、利用者が混乱し、保守コストも高騰。
3. 運用体制の準備不足
• 事例: リリース後の問い合わせ対応やトラブル時のフローが決まっていない状態で本番稼働を迎えたケース。
• 結果: 問い合わせが殺到し、担当者が過負荷に陥り、システムへの信頼性も低下。
成功する企画の特徴
1. 明確なビジネス目的と背景がある
• 事例: 業務プロセスを可視化し、どの部分が効率化可能かを徹底的に分析。その結果、「顧客対応の平均時間を30%短縮する」という具体的な目標を設定したケース。
• 結果: 目標が明確だったため、必要な機能の優先順位が適切に定まり、シンプルかつ効果的なシステムが完成。
2. システム企画全体を貫くストーリーがある
• 事例: 各部門の要求を集約し、「最終的に顧客満足度を向上させる」という一貫した目的を基に設計を行ったケース。
• 結果: システム全体がスムーズに連携し、利用者から高い評価を得られた。
3. 運用体制まで見据えた計画
• 事例: 本番稼働前に、問い合わせ対応フローや定期メンテナンス計画を事前に策定。さらに、担当者のトレーニングも行ったケース。
• 結果: リリース後のトラブルが最小限に抑えられ、運用負荷も適切に管理された。
ここから学べること
失敗する企画と成功する企画の違いは、いかに「全体を俯瞰して計画を立てたか」にあります。背景や目的をしっかり設定し、一貫性を持たせ、運用まで考慮した企画は、関係者全員にとって納得感のあるものになります。次のセクションでは、企画をブラッシュアップするための具体的なステップを解説します。
なお、これらの事例は、システム開発における一般的な成功要因と失敗要因を示しています。詳細な事例やベストプラクティスについては、以下の参考資料をご参照ください。
• システム開発の失敗事例11選|7割が失敗する原因と対策を完全解説
企画をブラッシュアップするための3つのステップ
企画は一度作って終わりではなく、何度も見直しを繰り返すことで完成度を高めていくものです。このセクションでは、企画をブラッシュアップするための具体的な3つのステップを紹介します。
①レビューを活用する
自分一人で企画を完成させようとせず、他者の視点を取り入れることが重要です。
• ポイント:
1. 異なる立場の人から意見をもらう
• 利用部門、技術担当、経営層など、それぞれの視点で企画を確認してもらう。
• 利用部門: 実際に役立つか、使いやすいか。
• 技術担当: 実現可能性や技術的なリスク。
• 経営層: ビジネス効果が見込めるか。
2. 想定質問に答えられるか確認する
• 「なぜこの機能が必要なのか?」「コストと効果は適切か?」など、企画に対する基本的な質問をシミュレーションする。
例えば、あるプロジェクトでレビューを通じて「運用時に発生しうる課題」が指摘された結果、リリース前に追加の対応を行うことができ、リリース後のトラブルを未然に防ぐことに成功しました。
②フィードバックを具体的なアクションにつなげる
レビューで得られたフィードバックを、そのまま放置するのではなく、具体的な修正作業に落とし込むことが大切です。
• ステップ:
1. フィードバックを整理する
• 修正が必要な点、追加検討すべき点、現状維持で問題ない点に分類する。
2. 優先順位を付ける
• ビジネス背景やユーザー影響度を基に、どのフィードバックを先に反映すべきかを決める。
3. 修正の方向性を明確化する
• 「具体的な変更案」として落とし込む。例: 「操作画面のボタン配置を変更」「ログ出力形式を追加」など。
例えば、ある企業ではフィードバックを受けて優先度の高い要件に集中することで、限られたスケジュール内でも効果的なシステムが構築されました。
③仮説を立てて検証する
企画内容が適切かどうかを判断するためには、実際に試してみるのが効果的です。
• 方法:
1. プロトタイプの作成
• 企画段階で作成可能な簡易的なシステムやモックアップを用意し、利用者にテストしてもらう。
2. フィードバックを収集
• プロトタイプを基に、ユーザーや関係者から意見を集め、課題点を洗い出す。
3. 仮説を修正する
• 最初に立てた仮説が不十分な場合、実際のデータを基に再構築する。
例えば、物流システムの企画時に簡易プロトタイプを利用して運用部門に試してもらったところ、「画面遷移が多すぎて使いにくい」というフィードバックを得て、最終設計で画面数を削減することで改善がうまくいったというようなケースもあるようです。
これらのステップを通じて、企画内容を精査し、より実現性が高く、利用者にも満足されるシステム企画を作り上げることができる可能性を高められるでしょう。
おわりに
システム企画は、単なる作業手順ではなく、ビジネスの課題を解決し、関係者やユーザーに価値を提供するための重要なプロセスです。この記事では、初心者や企画に初めて取り組む方に向けて、基本的な考え方や押さえるべき観点、さらには企画をブラッシュアップする方法を解説しました。
システム企画において特に重要なのは、「なぜこのシステムが必要なのか?」という目的を明確にすることです。この目的がしっかりしていれば、企画全体に筋が通り、関係者の合意形成もしやすくなります。そして、具体的な観点(ビジネス目的、ユーザー目線、実現可能性など)を丁寧に検討することで、失敗を未然に防ぎ、成功へとつなげることができます。
一歩ずつ成長を重ねる
企画を作成する際、最初から完璧を目指す必要はありません。むしろ、フィードバックを受けて改善しながら進める姿勢が大切です。また、運用後のことを見据えた計画を立てることも忘れないでください。
最初は思い通りにいかないこともあるかもしれません。というか、思い通りにいかないことばかりだと思います。しかし、失敗から学び、次の企画に生かすことで、企画力は着実に向上していきます。重要なのは、常に「何を改善できるか」を考え続けることかなと考えます。
この記事を読んだ皆さんが、自信を持ってシステム企画に取り組み、価値あるシステムを生み出していけることを願っています。企画の第一歩を踏み出したあなたを、心から応援しています!